黒崎播磨2025年度シーズンレポート③
サブテン7人を輩出している黒崎播磨。入社前に実績の無い選手が成長する理由とは?
2025年度の黒崎播磨陸上競技部は、マラソンで周囲が驚く活躍を見せた。エースの細谷恭平は12月の福岡国際マラソンで日本人2位に入ると、26年2月の大阪マラソンでは2時間06分44秒と自身4回目の2時間7分未満を達成。さらに入社3年目の福谷颯太と井手翔琉が、26年2月に揃って2時間7分台をマークした。園田隼が18年にチーム初の2時間10分切りを達成してから8年。表のように7人がサブテンで走り、日本有数のマラソン選手層を誇るチームに成長した。
シーズンレポート③では、入社前に実績がない選手が成長し、”黒崎マジック”と言われるまでになった背景を紹介する。
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「一番は心の部分」と福谷
日本のトップ選手の1人に成長した細谷恭平は、学生時代に箱根駅伝5区で2度区間3位で走っているが、そこまで注目される選手ではなかった。園田は箱根駅伝5区区間13位、土井大輔は箱根駅伝7区区間5位、福谷颯太は箱根駅伝5区区間10位相当(オープン参加)が学生時代の実績だ。田村友佑と坪内淳一は高卒で実業団入りし、井手翔琉は関西の大学出身で箱根駅伝には出場していない。
マラソンで結果を出し続けている細谷は、「無駄な練習はしていません」と断言する。「監督のメニューをしっかり消化して、追い込むところで追い込めば自然と強くなります。あとは(個人でタイムを上げられる)タイムトライアルで頑張ったり、ジョグを活用して疲労を管理したり、ピーキングを工夫したりできれば、さらに上に行くことができます」
福谷は成長の要因を「黒崎でやっていけば、体の部分はマラソンランナーになると思っていましたが、一番は心の部分」だと話した。
“体の部分”は日常の練習がベースになることに加え、マラソンが近くなると本番に合わせた走り方も練習に取り入れることを指す。それに対して”心の部分”とはどんなことを指すのだろう。
「監督が面談でも練習でも、『このくらい走れないとダメだぞ』とか、『オマエの能力はこんなもんじゃない』といった言葉をかけてくれます。駅伝でも、九州予選のメンバーなら“負けられない”というプライドを持たせてくれたり、ニューイヤーの2区なら区間2桁順位ではダメだと、痛いところを突いてきたり。ステップアップする意識付けをしてくれます」 その選手が何を目標とするか。その目標をどれだけ、本気で考えられるか。それによって選手の行動が変わってくる。
“基準”を作ることを提案された井手
井手も澁谷監督の言葉がステップアップのきっかけになった。「40km走を感情的に走らないこと」や「次のポイント練習が速めの設定だったら、2日前の1000mの刺激も速めにして動きを確認すること」など、澁谷監督と何度も話しながら自分で判断してきた。
ニューイヤー駅伝7区の失敗(区間26位)は、他チームの前に出て引っ張りすぎたことが原因と考えられたが、「フォームもばらばらだった」ことを澁谷監督から指摘された。「腰が落ちた走りになっていることを監督から言われて、”基準”を作ることを提案していただきました。最初の10歩でいいので、良い時のヒザの高さやヒジの位置を覚えて、比較するようにしたんです。動きづらい箇所が特定できて、疲労の状態を判断できます」
その選手の課題をスタッフが的確に見抜き、アドバイスをする。テクニカルな指導のノウハウも、黒崎播磨の選手が成長する大きな要因だろう。

トレーニングだけでなく、「専属トレーナーの存在が大きい」と井手は感じている。「大阪マラソンに向けて2回、脚に違和感が出ました。すぐに古門さんに鍼を打ってもらって、練習できることを確認して継続しました」
古門大典氏は理学療法士の資格を持つ陸上競技部専属のトレーナー。黒崎播磨の選手を継続的に見ているため、選手の状態を的確に判断できる。澁谷監督らスタッフとも密に連携を取り、練習メニューに合わせた治療を行っている。
また、自身のことを「心配性」と認める井手は、練習でも試合への準備でも、やることが多くなりすぎていた。そこに入社1年目で気づき、2年目以降は「何を選択して何に集中するか」を考え始めた。そういった細かいことの積み重ねが結果につながっている。
澁谷監督は特に、「3年目までに黒崎播磨のトレーニングの意図をしっかり理解させたいので」と、丁寧に指導をする理由を話す。「その中で余裕が出始めたら、個々にやりたいカラーを出せるようになります」
選手によって結果が出始める時期に差は生じるが、福谷と井手が3年目の終わりに2時間7分台を出したことは、決して偶然ではなかった。
黒崎播磨にはトレーニングのノウハウと、故障予防の体制が確かにある。その環境でチームとして地道な練習を積み重ね、さらに選手が個々の課題を認識して、強い意思を持ってやるべきことをやり続ける。それが”黒崎マジック”の正体である。 TEXT by 寺田 辰朗
