Dry-Free®
不定形耐火物の乾燥プロセスを不要にするという、常識を覆す挑戦
Dry-Free®
チームメンバー
- 黒崎播磨株式会社 FR企画・営業部営業グループ 古賀マネージャー
- 黒崎播磨株式会社 FR企画・営業部営業グループ 信田マネージャー
- 黒崎播磨株式会社 不定形技術部製鋼不定形・補修材グループ 徳富マネージャー
- 株式会社ダイカン 環境部門 執行役員 新田様
- 株式会社ダイカン 工場管理部設備保全課 係長 木元様
- 株式会社ダイカン 工場管理部設備保全課 主任 上岡様
<株式会社ダイカン 会社概要>
ダイカン様は、近畿エリアを中心に産業廃棄物の処理と再資源化を手掛ける、50年以上の歴史を持つ会社です。大阪府内に2カ所の焼却施設、兵庫県内に1カ所の破砕施設を運営し、焼却、選別、破砕の許可を保有。年間約13万トンの産業廃棄物を処理されています。
同社は年に2回、焼却炉の定期点検・整備を実施しており、黒崎播磨は耐火物の提供やメンテナンスのサポートを行っています。
今回、代表ユーザーとして、Dry-Free®についてお話を伺いました。
時代と共に変化する産業廃棄物に対応する耐火材を求めて

「Dry-Free®の開発背景についてお聞かせください」
ダイカン 木元様:
本社工場を中心に設備のメンテナンスを担当している木元です。まずは、開発に至る背景についてお話しします。
耐火材は、焼却炉内部の大部分を覆う材料であり、焼却によって高温にさらされることで常にダメージを受けます。
産業廃棄物の種類は時代と共に変化し、特に近年では廃プラスチックの割合が増えています。これらは熱エネルギー(カロリー)が非常に高いため、耐火材への負担も増しています。
こうした状況の中で、焼却炉の耐火材の劣化・損耗も年々加速し、耐火材仕様の見直しや工法の変更が急務となっていました。そこで、耐火材を提供いただいている黒崎播磨と協議を重ね、さまざまな改善策を模索してきました。例えば、吹き付け材の変更や、耐火ブロックを用いた新工法の導入などの試行錯誤も繰り返しました。
そうした積み重ねの中で誕生したのがDry-Free®です。一足飛びに新材料が生まれたものではなく、段階的な改良を重ねた末の素材として採用しました。
黒崎播磨 信田:
耐火物の設計・施工管理と営業を兼務している信田です。ダイカン様とは、10年ほど前から担当者としてお付き合いさせていただいています。
Dry-Free®の開発前より、ダイカン様では当社の保有する最高クラスの緻密質な不定形耐火物を採用いただいていました。一定の耐久性は確保できていましたが、あまりに緻密ゆえに、昇温時に「爆裂」という水蒸気による耐火物の破壊現象が発生することがありました。そのため、定期整備工事の最後に実施する耐火物の乾燥の際には、各所に温度計を設置し、温度を計測しながら90時間から100時間もの間、現場に張り付いて監視を続ける必要がありました。それでも爆裂が起こった事があり、その経験は絶望的で、今でも大きなトラウマとなっています。
このような不定形耐火物にとって宿命的な問題を解決するために、先駆けとして取り組んだのが、基幹的なライニング構造の設計変更でした。従来のように現場で水と混練して施工するのではなく、事前に当社工場で成型・乾燥させたプレキャストブロックを製造し、それらをレンガのように積み上げて築造できる構造に改良しました。この方法により、Dry-Free®開発に至るまでの中継ぎ的な段階として、乾燥時間の短縮と耐久性の向上を同時に実現しました。
乾燥プロセスを不要にするという、常識を覆す挑戦

「不定形耐火物の乾燥は、心身ともに非常に大変な工程なのですね」
黒崎播磨 古賀:
Dry-Free®の開発を担当した古賀です。私が初めてダイカン様を訪問し、炉を観察した際には、すでにブロック化による乾燥工程の省力化がある程度進んでいました。しかし、炉の形状が複雑な場合、ブロック化は難しく、また、操業中にブロックが抜け落ちて運転を緊急停止しなければならないリスクなどの課題が残っていました。
そのような中で、ダイカン様のご担当者から「完全に乾燥が不要な材料はできないのか?」という強い要望をいただきました。この言葉に、技術者としてまさに目が覚めるような大きな衝撃を受けました。当社の事業目標は「世界一の顧客価値の実現」です。「これまで常識とされてきた乾燥というプロセスそのものを、本当に不要とすることができるのか?」、業界の常識からすれば無謀な挑戦と分かっていましたが、お客様の「困った」に真摯に向き合うことが私たちの使命です。まずは、100年以上にわたる当社の研究開発データを徹底的に振り返ることからスタートし、試行錯誤と発想の転換を重ね、1年という短期間で開発に成功することができました。
90〜100時間の乾燥工程が不要に。最短8時間で焼却炉を立上げ

「Dry-Free®を導入したことで得られたメリットについてお聞かせください」
ダイカン 上岡様:
プラント機器全般の保全業務、特に耐火物補修を含む定期整備工事の管理を担当している上岡です。
保全の現場から見た最大のメリットは、乾燥工程で神経を使う必要が無くなり、ストレスから解放されたことです。爆裂のリスクがなくなったことで、安心・安全につながりました。
先ほどのお話にも出ましたが、従来の乾燥工程では90時間から100時間を要し、その間、炉内の温度を数十度単位で慎重に管理し続ける必要がありました。しかし、Dry-Free®の導入により、乾燥工程そのものが不要となり、焼却に必要な炉の昇温のみで立ち上げが可能になりました。その結果、最短8時間程度で立上げできるようになりました。
ダイカン 木元様:
これまで使用していた材料と置き換え可能であるという点も、Dry-Free®の大きな魅力の一つです。新しい材料の場合、「特定の用途にしか使えない」といった制限があることが多いのですが、Dry-Free®は流し込みにも吹き付けにも対応できる、非常にフレキシブルで汎用性の高い素材です。
以前、プレキャストブロックを導入した際には、支えの金具まで変更する必要があり、炉内全体にわたる大掛かりな作業が必要になりました。しかし今回は、材料面でそのような大きな変更が不要であったうえ、乾燥工程が不要なことで、これまで必要だった重油などのエネルギー負担がなくなり、コスト面でも大きなメリットが得られています。
また、先ほど信田さんからもお話がありましたが、爆裂などのトラブルが発生すると、技術的な問題にとどまらず、精神的にも大きなダメージを受けてしまいます。せっかく整備を終えて万全の状態で立ち上げようとしたタイミングで爆裂が起こると、施工者はもちろん、現場の管理を担当する私たちにとっても非常に大きなショックになります。
Dry-Free®の導入にあたり、理論面や実験室のデータ、また実際のテスト結果からも爆裂の心配がほぼないことが確認できており、その点でも、非常に安心して使用できる素材だと考えています。
ダイカン 新田様:
工場部門の執行役員を務めております新田です。私は管理の立場から、燃料費削減という観点でDry-Free®に大きなメリットを感じています。また、廃棄物処理業は法律に準じて運営していく必要があり、省エネ法や脱炭素のための温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)との関連においても、燃料削減は重要なポイントです。
具体的には、これまで乾燥工程において約50キロリットルの重油を使用していましたが、Dry-Free®を導入したことにより、約4キロリットル、すなわち13分の1にまで削減することができました。定期整備工事は年に2回実施しているため、年間を通じて見ると非常に大きなエネルギー削減効果が得られています。
さらに、燃料使用量の削減はコスト面での効果だけでなく、温室効果ガスの排出量削減にも寄与します。こうした点からも、管理側の視点において、Dry-Free®は非常に付加価値の高い製品であると評価しています。
黒崎播磨 徳富:
不定形耐火物の技術サービスや材料開発・改善を担当している徳富です。
お客様に製品をご使用いただき、その価値を認めていただけることは、私たちモノづくりメーカーにとって非常にありがたく、何よりの励みになります。
ダイカン様にもご評価いただいたように、Dry-Free®は性能の面だけでなく、カーボンニュートラルに向けた社会的な取り組みの観点からも高くご評価をいただいております。こうしたメリットをお客様に提供できることは、私たちにとって大きな喜びです。
今回のダイカン様での取り組みをひとつの代表的なケースとして、国内はもちろん海外にもDry-Free®の効果を広めていくことが重要だと考えています。より多くのユーザーの皆様にこの価値をお届けし、カーボンニュートラルな社会の実現に貢献していくことが、弊社の使命のひとつであると認識しております。
トラブル時に4日ほど必要だったアイドリングタイムが1日以内に

「さまざまなメリットがある中で、最も大きなメリットを感じているポイントは何でしょうか?」
ダイカン 上岡様:
特に大きなメリットを感じているのは、高温環境下でも「吹き付け補修」が可能である点です。従来の吹き付け材では、耐火材が脱落してトラブルが発生した場合、一度炉内の温度を完全に下げなければ補修作業に取りかかることができませんでした。そのため、復旧までには少なくとも4日程度を要していました。
しかし、Dry-Free®の吹付け材を使用すれば、炉内を約200度程度に維持した状態でも吹き付け補修が可能です。これにより、温度を下げる時間と再度昇温する時間の両方を大幅に短縮できるため、非常に大きな利点となっています。
実際、先日Dry-Free®への更新を予定していた箇所で、工事直前に一部の耐火材が脱落し始めていましたが、Dry-Free®の吹き付け材を使用することで、炉を完全に停止することなく、約21時間、つまり1日もかからずに通常稼働まで復旧することができました。
さらに、短期間で施工可能という点を活かし、定期整備工事以外で計画的に吹き付け補修を行うことで、既存の耐火物の延命化も計画しております。
このように、Dry-Free®は万が一のトラブル時にも迅速な対応が可能であり、補修計画においても選択の幅が広がるという点で、非常に優れた材料だと実感しています。
蓄積してきた研究開発データをもとに、結合材を切り替え

「乾燥が不要となった技術的な特徴や、それ以外の特性について教えてください」
黒崎播磨 古賀:
開発者として、ダイカン様から貴重なご意見を頂戴できたことを、大変嬉しく思っております。
乾燥が不要となった最大の要素は、これまで100年以上にわたって常識的に使用されてきた結合材「アルミナセメント」を見直した点にあります。アルミナセメントは水と混和すると「水和鉱物」が生成され、これが気孔を埋めて材料を緻密にすることで、乾燥しにくくなるという特性を持っています。
そこで私たちは、これまで蓄積してきた膨大なデータをもとに、結合材を「ノンセメント」へと切り替える開発に取り組みました。アルミナセメントを使用しない新たなバインダーを用いた不定形耐火物を開発したことで、通気率を従来比で100〜1000倍に向上させることに成功しました。これにより、簡単に脱水できるようになり、乾燥工程が不要となったのです。
また、上岡様がお話しされた「高温環境下でも吹付け補修が可能」という点も、この新しい結合材を採用したことによる大きなメリットの一つです。アルミナセメントは高い強度を持つ反面、接着力に乏しいという課題がありましたが、新たな結合剤では高温下でも優れた付着性・接着性を発揮し、耐火材の寿命向上にも貢献しています。
黒崎播磨 徳富:
通気性を1000倍に高めたことで、「耐火物の表面に付着したスラグ(焼却炉内で生じた灰が高温で溶融したもの)が浸透しやすくなるのではないか」といったご質問をいただくことがあります。
しかし、Dry-Free®は、スポンジのように粗い空隙を持つ材料ではなく、顕微鏡レベルでしか確認できない微細な通気孔を備えた材料です。そのため、スラグが付着しても、即座に浸透するようなことはありません。
さらに、ダイカン様にご採用いただいているDry-Free®の材質は、焼却炉で一般的に多く含まれるスラグ成分「酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムなど」に対し、化学的にブロックする設計を施しています。実際に使用した耐火物の分析においても、スラグの浸透は表面の数ミリ程度にとどまり、内部に深刻な影響を及ぼすことはありませんでした。
黒崎播磨 信田:
私は、ダイカン様以外のユーザーにもDry-Free®のエンジニアリングを担当しています。炉には非常に多くのタイプがあり、形状や操業条件が異なるだけでなく、特殊な構造を有するものも存在します。そのため、あらゆる条件下で問題なく施工できることが重要です。
そこで、Dry-Free®の性能を最大限に発揮させるために、材料の熱伝導率、残存線変化率、熱膨張率、圧縮・曲げ強度などの物性データを把握し、それらを基に材料を適材適所に施工できるよう、炉の条件に合わせて詳細な設計を行っています。当社では、そのような設計に加えて、施工管理や現場での指導にも丁寧に対応し、トータルソリューションでの品質の確保にも努めています。
課題に対して親身に寄り添い、解決に向けて真摯に取り組む姿勢

「ダイカン様には10数年にわたって黒崎播磨の製品とサービスを導入いただいています。選ばれているポイントを教えていただけますか?」
ダイカン 上岡様:
おっしゃるとおり、弊社と黒崎播磨様との業務上の関係は10数年にわたり続いております。取引先として信頼している大きな理由のひとつは、私たちが抱える課題に対して常に親身に寄り添い、解決に向けて真摯に取り組んでくださる姿勢にあります。
たとえば、先ほど話に出た爆裂の問題が発生した際にも、黒崎播磨様は私たちと共に課題に向き合い、乾燥工程の見直しや新たな耐火材の導入といった解決策を積極的にご提案くださいました。
また、近年では焼却物のカロリーが上昇し、焼却炉への負荷も大きくなっています。こうした新たな課題に対しても、定期整備の際に耐火材に想定外の損耗があれば現場で応急補修のご提案をいただいたり、新素材の導入をご提案いただいたりと、柔軟かつ将来を見据えた対応をしてくださっています。これらのサポートが、黒崎播磨様への強い信頼につながっています。
これからも安定的に環境に良い操炉を継続するためには、過酷化する条件に合わせて耐火材も適応していく必要があると考えています。そのためにも、今後も黒崎播磨様の技術的なサポートをいただきながら実現していきたいと考えております。
さらに耐久性を高め、より過酷な環境下でも対応可能な技術開発を

「Dry-Free®の今後の展開について構想をお聞かせください」
ダイカン 新田様:
産業廃棄物業界は、社会情勢の変化や法改正によって大きな影響を受ける業界です。一見すると同じような廃棄物を取り扱っているように見えても、実際には日々異なる性質のものを処理しており、時代の流れとともにその内容も変化しています。
当社の本社工場は町の中心部に位置し、アクセスの良い環境にあります。近年、周辺環境を考慮し、約2年前から廃棄物の焼却方法を段階的に見直す取り組みを進めてまいりました。そうした中で、黒崎播磨様には、時代の変化に柔軟に対応できる耐火物のご提案を幅広くいただいており、大変心強く感じております。今後も黒崎播磨様の高い技術力を活かし、さまざまなご提案をいただけることを期待しております。
また、当社にとって安定操業は極めて重要であり、万が一焼却炉の運転が1日でも停止すると、数千万円規模の損失が発生する可能性もあります。そうしたリスクを回避するためにも、耐火物のさらなる耐久性向上や、適切なメンテナンスに関するご提案を通じて、今後とも安定操業に向けたご支援をお願いできればと考えております。
黒崎播磨 信田:
ダイカン様には本社工場の定期整備工事において、Dry-Free®を全面的にご採用いただきました。これにより乾燥工程を完全に省くことが可能となり、定修後の立ち上げ時に使用する重油の大幅な減、ひいてはCO₂排出量を約92%削減することが実現されました。
昨今、日本においても地球温暖化や気候変動の影響がますます顕著になってきています。毎年のように記録を更新する夏の猛暑や、全国各地で多発する集中豪雨による災害は、もはや日常生活の中で身近な問題となっています。私自身も三人の子どもを育てる中で、彼らが将来も安心して暮らせる持続可能な環境を残していかなければならないと、強く感じております。
Dry-Free®の取り組みは、世界全体の規模で見れば小さな一歩に過ぎないかもしれません。しかし、この取り組みを国内外に着実に広めていくことで、小さな点が次第に増え、やがては太く長い線となり、シナジー効果を生み出すと信じています。より良い地球環境を次世代に引き継ぐためにも、耐火物ユーザーの皆様と力を合わせながら、この取り組みを推進していきたいと考えています。
黒崎播磨 古賀:
Dry-Free®は、単なる新素材にとどまらず、業界の歴史を変える可能性を持つ材料であると自負しております。ダイカン様のような過酷な操業条件下でも十分に耐用でき、他の多くの焼却炉への展開も進めています。
カーボンニュートラルやSDGsといった地球環境への取り組みが社会の中心課題となる中で、Dry-Free®の価値がようやく広く認識され始めています。お客様にDry-Free®をご採用いただくことは、環境負荷の低減や持続可能な社会の実現に貢献することにもつながると考えております。
今後は、さらに耐久性を高め、より過酷な環境下でも対応可能となるよう、技術開発を進めてまいります。そして、Dry-Free®の市場展開を一層拡大し、この事業を通じて日本全国、そして世界へと貢献し、地球環境を守る一翼を担う存在となることを目指しています。
