KROTECT®
脱炭素化時代に向けて高い断熱性能を発揮する素材開発
KROTECT®
チームメンバー
- セラミックス事業部サーマルセラミックス部品質技術グループ長 森清
- セラミックス事業部サーマルセラミックス部品質技術グループマネージャー 鶴賀
- セラミックス事業部サーマルセラミックス部品質技術グループマネージャー 山下
- セラミックス事業部サーマルセラミックス部生産技術グループマネージャー 福井
低熱伝導率かつ、低コストの断熱材が求められていた

「KROTECT®の開発背景についてお聞かせください」
森清:
サーマルセラミックス部品質技術グループで材料開発を担当するグループ長の森清です。当社では、長年にわたりフュームドシリカを主原料としたナノ断熱材を輸入し、加工・販売してきました。しかし、近年、国内外を問わず脱炭素社会へのシフトが加速する中で、断熱材の素材特性に対するカスタマイズの要望が高まってきました。
特にニーズが高かったのは、家庭用燃料電池市場です。小型化や機器のコストダウン、高効率化による普及拡大を目的として、低熱伝導率かつ低コストの断熱材が求められるようになりました。こうしたニーズに柔軟かつ迅速に対応するためには、自社製造が不可欠であると判断し、スピーディーかつ安価に供給できる一貫製造ラインの開発プロジェクトを立ち上げました。
エネルギー効率を向上しながら、小型化・コストダウンのニーズにも対応

「お客様から具体的にどのようなニーズが寄せられていますか?」
福井:
サーマルセラミックス部生産技術グループで設備導入を始めとした生産技術を担当している福井です。当社の断熱材は、鉄鋼分野はもちろん、工業炉や燃料電池分野など、高温環境で使用される操業設備に広く採用されています。
こうした設備の運用において重要なのは、放熱による熱損失の抑制と、エネルギーコストの管理です。熱損失が大きいと、余分なエネルギーが必要になり、省エネの観点からも望ましくありません。
さらに、カーボンニュートラルの実現に向け、より高効率な運用を求める声が増えています。
もちろん、断熱材を増やせば熱損失の抑制は可能ですが、その一方で設備の大型化やコスト増加といった課題が生じます。こうしたニーズが近年多く寄せられています。
より少ないスペース&コストで、効果的な断熱が可能に

「お客様のメリットはどのような点でしょうか?」
山下:
サーマルセラミックス部品質技術グループで材料開発を担当している山下です。先ほど福井が挙げたお客様のニーズにお応えできる製品が、私たちが開発したKROTECT®です。市場に流通している各種断熱材と比較しても、高い断熱性能を持ち、熱ロスを低減できます。さらに、断熱材そのものの厚みを抑えることで、システム全体のダウンサイジングとコスト削減に貢献します。
特に燃料電池分野では、高性能な断熱材が求められています。KROTECT®を使用することで、より少ないスペースで効果的な断熱が可能となり、エネルギーコストの低減や機器の小型化を実現できます。その結果、エンドユーザーにとっても、設備のコストダウンや高効率化といったメリットをもたらします。
「KROTECT®の技術的な特徴について教えてください」
鶴賀:
同じくサーマルセラミックス部品質技術グループで材料開発を担当している鶴賀です。KROTECT®は、従来品と比較しても非常に低い熱伝導率を持つ断熱材です。この特性は、当社独自の材料開発と製造技術によって実現しました。特に、主成分であるフュームドシリカの物性に着目したことが開発成功の鍵となりました。この素材には目に見えない微細な孔が多数存在しますが、それらを可能な限り小さくし、構造を緻密化することで、低熱伝導率と高強度の両立を実現しました。
製造技術の詳細についてはお伝えできませんが、素材の特性を最大限に活かすために、さまざまな製造条件を検討し、最適化することでKROTECT®の高性能化を実現しました。
素材発見から配合、生産ラインの立ち上げまで、いくつもの難所を乗り越えて、安定生産を実現

「開発の中で苦労した点と、それをどう乗り越えましたか?」
鶴賀:
まず最初に取り組んだのが材料のスクリーニングです。多くのサンプル材料を入手し、一つひとつ丁寧に性能評価を行いました。もともと断熱性能の高い素材を選定していましたが、その中からさらに高性能な素材を見つけ出すには、非常に高い技術的ハードルがありました。それに加え、限られた期間内で迅速に評価を進める必要もありました。しかし、熱伝導率を従来品に対して20%低減できる素材を発見したことで、第一段階をクリアできました。
ただ、お客様のニーズは多岐にわたります。例えば、ハンドリング性も重要な要素の一つです。低熱伝導率であっても、取り扱いが難しければ実用化は困難になります。そこで、原理的な部分に立ち返り、低熱伝導化と高強度化のメカニズムを徹底的に考察・調査し、それに基づいて配合を最適化しました。更にAI技術の一つであるマテリアルズ・インフォマティクスを活用し、低熱伝導かつ高強度を兼ね備えたKROTECT®を完成させました。
構想から完成まで、約5年の道のりでした。この過程で生み出した技術の一部は特許も取得しています。
山下:
多くの製造プロセスに共通する課題ですが、ラボスケールと実生産スケールの違いにも苦労しました。ラボで作製する試作品は小さいサイズですが、実際の製品はもう少し大きくなります。その際、性能に差異が生じることがあり、ラボで得られた品質を実製品にも反映するための調整を行う必要がありました。
「生産ラインの立ち上げや、安定生産をするために苦労した点はありましたか?」
福井:
KROTECT®の生産には、黒崎播磨オリジナルの生産ラインを新設しました。汎用設備では対応できないため、社内外の専門知見を結集し、議論を重ねながら独自仕様の設備を設計しました。
また、取り扱う原料の特性が特殊であることも大きな課題でした。基礎検証の段階からカットアンドトライを繰り返し、最適な要素技術を見出しました。設備メーカーとも綿密に連携し、幾度となく議論を重ねながら生産ラインを完成させました。
さらに、稼働開始後には予期せぬトラブルも発生しましたが、チーム全員でアイデアを出し合い、課題を一つずつ解決しながら進めてきました。その結果、安定した生産体制を確立することができました。
今後高まる断熱材のニーズに対して、幅広い分野で活用できる技術開発を進める

「環境への配慮について教えてください」
山下:
断熱材は、省エネをはじめとする環境メリットに直結する製品です。放熱による無駄な熱エネルギーを削減するだけでなく、それを補うために必要な電力の消費も抑えることができます。
工業炉分野では、KROTECT®の適用により従来品と比較して年間250tのCO2削減が可能であると試算しています。KROTECT®は、世界が目指す脱炭素社会の実現に貢献できる製品です。
「これからの技術開発はどのようにお考えですか?」
森清:
断熱材に関するニーズは、今後さらに多岐に広がっていくと感じています。現在の参入分野にとどまらず、半導体分野を含む精密電子部品の発熱対策や遮熱設計などにも応用できる可能性があると考えています。
今後も、さまざまな使用環境での課題をクリアし、より幅広い分野で活用できる技術開発を進めていきます。
さらに、お客様のニーズに応じた技術開発を推進し、製品性能のさらなる向上を目指します。加えて、新市場への積極的な展開も進めていく予定です。
