THINREX™
インタビュー|ゼロから挑んだ扁平形状の浸漬ノズル。薄スラブ連続鋳造の品質と生産性を両立し、世界の製鉄所へ。
THINREX™
チームメンバー
- 機能性事業部マネージャー 岡田
- 機能性事業部スタッフ 神宮
- 技術サービスグループ長 香月
- 技術サービスグループマネージャー 星野
- 技術サービスグループマネージャー 小出
- 技術サービスグループアシスタントマネージャー 高橋
- 技術サービスグループスタッフ 古川
- 海外営業部長 黒田
- 海外営業部マネージャー 大木
- 海外営業部マネージャー ナロン
2つの工程を1つに集約する、薄スラブ連続鋳造という挑戦

まずは、THINREX™の開発背景についてお聞かせください。
香月:
自動車や家電に使用される薄板鋼板の製造工程には「連続鋳造」と「熱間圧延」という2つの工程があります。
まず連続鋳造で、「スラブ」と呼ばれる厚さ200~300mm程度の鋼の板を鋳造していったん保管し、その後の熱間圧延で、もう一度加熱して圧延機で薄く延ばしていきます。
これに対し、連続鋳造の段階で最初から50~90mm程度の薄いスラブをつくり、工程をコンパクトに集約して効率よく製造する方法が「薄スラブ連続鋳造」です。
この技術を使った「ミニミル」と呼ばれる小型の一貫製鉄プロセスは、設備をコンパクトにまとめられるため、設備投資もCO₂排出量もエネルギー消費も大幅に抑えられます。近年、先進国の電炉メーカーや、新興国の高炉・電炉メーカーにおいて適用が広がっています。
この薄スラブ連続鋳造機で最も特徴的なのが、薄いスラブをつくるための漏斗(じょうご)の形をした鋳型「ファンネルモールド」です。
鋳型は上に向かって広がった形をしていて、その狭い空間に合わせて、溶けた鋼を鋳型へ注ぎ込む筒状の耐火物である「浸漬ノズル」を扁平な形に最適化することで、広がった部分まできれいに溶鋼を注げるようにしています。
そのうえで開発されたTHINREX™ですが、技術的な特徴を教えてください。
星野:
THINREX™の大きな特徴の一つは、高い耐用性です。
浸漬ノズルを使える時間は、一般に、鋳型に投入する潤滑・保護用の粉と接触するジルコニアグラファイトという材質の寿命で決まります。THINREX™では、このジルコニアグラファイト材質を従来製品より厚く配置できるため、ノズル全体を長く使い続けられます。
さらにTHINREX™は、耐用性だけでなく、溶鋼を送り出す流れの性能にも優れています。
特に、均一で安定した湯流れを実現できる点が大きな強みです。鋳型内の流れが安定することで、高品質の鋼を高速鋳造することが可能になります。
こうして生産性と品質を同時に高められることが、THINREX™の価値です。お客様の現場で、効率化と品質向上を両立するうえで大きく貢献できると考えています。
限られた納期でCFDを回し、水モデルと3Dプリンタでゼロから形にする

開発にあたって、大変だった点や苦労された点はありますか?
岡田:
「CFD」と呼ばれる、コンピューター上で流れを計算する手法(数値流体解析)は、精度を上げるほど計算に時間がかかります。限られた納期の中で、たくさんの形状を比べるのに苦労しました。
精度と件数のバランスを取るため、水モデル実験という水を使った模型実験と突き合わせながら「どの流れに注目すべきか」をかなり悩み、計算の区切り方を工夫して、何度も計算を回しました。
当時の計算機はCFDに向いていなかったので、思い切って多数の演算コアを積んだCPUを探して導入したところ、一気に計算が進むようになり、嬉しかったのを覚えています。
ただ、発熱と騒音はすさまじく、横で唸るマシンを相棒に開発していました。そうした試行錯誤の積み重ねが、THINREX™の設計につながっています。
実物大(1分の1)モデルで湯流れを再現する、水モデルの観点からはいかがですか?
古川:
開発当初、当社には「吐出孔」という溶鋼が流れ出る孔だけでなくノズル本体の設計もなく、まさにゼロからのスタートでした。
そのため水モデル試験では、CFD解析で目星をつけたデザインを検証しながら、吐出孔の形を調整し、最適な湯流れを探っていきました。薄スラブ連続鋳造機は鋳型内の流れが非常に速く、湯面が揺れやすいため、安定して制御できるデザインを確立するには多くの時間を要しました。
そうした中、3Dプリンタの導入で試作・検証のスピードが大きく上がり、検討が一気に前進しました。さらに、岡田さんのCFD解析と互いに検証し合うことで、THINREX™の開発を加速させることができました。
単一形状では難しい“お客様ごとの最適”を、独自の整流化構造で実現

THINREX™を使うことで、お客様が得られる具体的なメリットを教えてください。
小出:
THINREX™をご採用いただくことで、大きく2つのメリットをご提供できます。
1つ目は、安定した鋳造品質です。
ひと口に薄スラブ連続鋳造といっても、鋳型の形状や鋳造速度などの条件はお客様ごとに異なり、単一の形状では対応が難しいのが実情です。そこで当社は、CFD解析や水モデルを駆使し、独自の浸漬ノズル内部で流れを整える「整流化構造」を用いた最適形状を検討しています。
この整流化構造により、さまざまなお客様の操業条件でも均一な湯流れを実現し、鋼の品質改善と安定した鋳造につなげています。
2つ目は、長寿命化とコスト最適化の両立です。
THINREX™は、ノズルの寿命に大きく影響するジルコニアグラファイトの配置部を、従来品より厚く配置できます。厚みや長さの自由度が高いため、耐用性を重視した配置、コストを重視した配置など、お客様の操業条件に応じた最適な設計をご提案できます。
汎用製品(他社の一般的な製品)との違いを教えてください。
高橋:
THINREX™は、一般に使われている汎用製品とは形が大きく異なります。
「クリアランス」と呼ばれる鋳型と浸漬ノズルのすき間は、お客様の操業のしやすさや鋼の品質に影響します。THINREX™は、このクリアランスを操業中も一定に保てる点が、汎用製品とまず大きく違うところです。
さらに、クリアランスを一定に保ちながら、汎用製品と同等以上に吐出流を抑えられます。加えて、ジルコニアグラファイト材質を厚く配置することで、浸漬ノズルとしての性能・寿命、そしてお客様の操業性や鋼の品質まで、あらゆる面で汎用製品との違いを持つ製品となっています。
品質・生産性・安全の課題解決が、エネルギー削減につながる

THINREX™の環境への貢献について教えてください。
神宮:
お客様の薄スラブ連続鋳造機にTHINREX™を適用いただくことで、鋼の品質・生産性・安全面の課題を解決できます。効率的な鋼の製造が可能になることは、製造に必要なエネルギーの削減、ひいてはCO₂排出量の削減にもつながります。
THINREX™の導入プロセスを教えてください。
大木:
THINREX™は、お客様のニーズに合わせたきめ細かなカスタマイズが可能です。
まず、お客様の使用環境を診断し、シミュレーションなどを実施したうえで、最適な製品仕様をご提案します。
その後、試験導入を経て、本格導入となります。導入後も、お客様から提供いただくデータをもとに現地で定期的に診断を行い、技術的なアドバイスもご提供しています。
インドTata Steel様での評価。介在物欠陥のリスク低減と生産性向上に貢献

THINREX™を導入されたお客様からのフィードバックを教えてください。
ナロン:
THINREX™は、最適化されたノズル形状によって鋳型内の溶鋼の流れを安定させ、流れの変動を抑えることで、鋳造された鋼の表面品質への悪影響を低減します。「流れが安定し、品質のばらつきが減った」というお声を、お客様からいただいています。
特に、高品質な鋼種を手がけるTata Steel様では、THINREX™の適用により、不要な介在物が原因となる欠陥のリスク低減や、固まり方の均一化にも貢献しています。その結果、THINREX™は、日本のみならず、世界各国で使用されています。インドの大手鉄鋼メーカーTata Steel様では、THINREX™が生産性向上に寄与する重要な要素技術として位置づけられています。
世界の薄スラブ連続鋳造機へ。企業理念とともにシェアを広げる

今後の市場展開について教えてください。
黒田:
THINREX™は、既に、日本のみならず、海外においても、品質と生産性の両立を重視するお客様に高い評価をいただいておりますが、さらなる普及を目指し、プロモーションを展開して行きます。
黒崎播磨グループの企業理念である『熱を操り、社会を支え、豊かな未来をつくる』のもと、お客様お一人おひとりのニーズに寄り添いながら、最適な製品をご提案してまいります。当社の強みである技術力と課題解決力を活かし、お客様と真摯に向き合って課題解決に取り組むことで、これからもお客様、そして社会に貢献できる存在であり続けたいと考えています。
今後の技術開発の方向性を教えてください。
香月:
THINREX™では、継続して新しい形状・材質の研究開発を進めており、お客様のあらゆるニーズに対して、最適な形状の薄スラブ用浸漬ノズルをご提供できるようになる予定です。今後も私たちは、卓越した技術力と課題解決力を追求し、世界中のお客様から選ばれ続けるグローバルリーダーを目指していきます。